GA4で「3〜4割が消える」は本当か——ベン図で重複排除した保守的推計

前回の記事「GA4は「正解」じゃない——3割が消える7つの構造的欠陥」で、私はこう書いた。
クライアントサイド計測で失われるデータは全体の30〜40%に達する
批判的な読者なら、こう思ったはずだ。
「重複を無視して足し算しているだけでは?」
「SafariユーザーがAd Blockも使っていたら、それは二重カウントだろう」
その通りだ。そして、その批判を先回りして封殺するために、この記事を書く。
あなたのGA4から消えている4つの経路
GA4のクライアントサイド計測からデータが消える経路は、大きく4つある。それぞれの影響度を、一次情報から確認していこう。
■ Safariユーザーが “幽霊” になる——ITPの7日ルール
ITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、AppleがSafariに実装したトラッキング防止機能であり、JavaScriptで設定された全cookieの有効期限を最長7日間に制限する仕組みだ。
ユーザーがそのサイトと7日間インタラクション(クリック・タップ等)しなければ、cookieは消える。
さらに厳しいケースもある。広告クリック経由(?gclid=や?fbclid=等のトラッキングパラメータ付きURL)でサイトに到達した場合、cookieの寿命は24時間にまで短縮される。
(出典:WebKit — Tracking Prevention Policy https://webkit.org/tracking-prevention/ )
では、日本でSafariはどれだけ使われているか。
StatCounter(2026年7月)のデータによると:
- 日本・全デバイス合計:Safari 23.19%
- 日本・モバイル限定:Safari 47.77%
(出典:StatCounter GlobalStats https://gs.statcounter.com/browser-market-share/all/japan )
前回の記事で「Safariシェア60%超」と書いた部分は、日本のモバイルOS市場でiOSが63.59%という数字と混同されやすい。iOSユーザーの全員がSafariを使うわけではない——iPhone上でChromeを使うユーザーも多い。ただし、iOS上のChromeもWebKitエンジンを使用しており、ITPの影響は同等に受ける。
つまり正確には:
日本のモバイルトラフィックの約64%(iOS比率)が、ITPの影響下にある。
全デバイスで見ると、日本のデスクトップ/モバイル比率は約57:43(StatCounter)。加重平均すると:
- ITP影響範囲 ≒ 64% × 43%(モバイル比率)+ 15% × 57%(デスクトップMac Safari推計)≒ 36%
では、このユーザーの何割が実際にcookie失効の影響を受けるか。
ITP定量モデル: 平均再訪周期14日(EC業界の一般的な数値)の場合、cookie寿命7日を超える再訪は全体の約50%。つまり、ITP対象ユーザーの半数が、再訪時に「新規ユーザー」としてカウントされる。
ITP単独での計測歪み ≒ 36% × 50% ≒ 18%
ただし、ここでは保守的にSafariシェア(全デバイス23%)ベースの数字も併記する。
保守的推計(Safari全デバイスベース): 23% × 50% ≒ 12%

■ 少数精鋭のFirefoxユーザーが見えなくなる——ETP
ETP(Enhanced Tracking Protection)とは、MozillaがFirefoxに標準搭載したトラッキング保護機能であり、トラッカーとして分類されたドメインからのcookieを自動的にブロックする。
日本でのFirefoxシェアは2.84%(StatCounter, 2026年7月)。数字だけ見ると小さい。
(出典:StatCounter GlobalStats https://gs.statcounter.com/browser-market-share/all/japan )
しかし前回も書いた通り、Firefoxユーザーは「技術リテラシーが高い層」に偏っている。あなたのサイトの最もエンゲージメントの高い——つまり最も購買力の高いセグメントが、ここに含まれている可能性がある。
ETP単独影響度 ≒ 3%
■ そもそもGA4が起動しない——広告ブロッカーの壁
広告ブロッカーとは、ブラウザの拡張機能やOS機能としてGA4の計測タグ(gtag.js)そのものをブロックするツールであり、タグが発火しなければそのセッションは「存在しなかったこと」になる。
日本の広告ブロッカー利用率は、業界調査によると約15.8%。これは世界平均の31.5%と比べてかなり低い。
(出典:Backlinko — Ad Blocker Usage and Demographic Statistics, 2025年更新データ https://backlinko.com/ad-blockers-users )
ただし、この15.8%はPC・モバイルの加重平均だ。PCに限定すると20〜30%というデータもある。ECサイトのようにデスクトップ比率が高いサイトでは、影響が上振れする。
広告ブロッカー単独影響度(保守的)≒ 15%
■ 法改正が追い風、同意拒否という “静かな断絶”——Consent Mode
Consent Modeとは、cookie同意バナーで「拒否」を選んだユーザーの行動データを、完全な計測ではなく推計(行動モデリング)で補完するGoogleの仕組みだ。つまり、拒否されたセッションのデータは「推計値」になる。
グローバルのcookie同意バナー拒否率は、業界調査によると平均42%。
(出典:justanalytics.app / kukie.io 等の業界調査レポート)
ただし、日本では事情が異なる。2026年8月現在:
- 改正個人情報保護法(2022年4月施行)で個人関連情報の第三者提供規制が強化
- 改正電気通信事業法(2023年6月施行)で外部送信規律が義務化
- 次期改正個人情報保護法(2026年7月成立・公布)で「連絡可能個人関連情報」の規制を更に強化
(出典:個人情報保護委員会 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/r8kaiseihogohou/ )
法改正を受けてcookie同意バナーを導入する日本企業は急増しているが、全サイトに一律で導入されているわけではない。バナーがないサイトでは、この要因はゼロだ。
Consent Mode単独影響度(バナー導入率を加味)≒ 5〜15%
ここでは、バナー導入が進んでいる中規模以上のEC・BtoBサイトを想定し、保守的に5%を採用する。
なぜ「単純な足し算」ではダメなのか
ここまでの数字を単純に足すと:
12% + 3% + 15% + 5% = 35%
「ほら、やっぱり3〜4割じゃないか」と言いたくなるが、この計算は統計的に間違っている。
なぜか。重複しているからだ。
Safariを使っていて、かつ広告ブロッカーも入れているユーザーがいる。このユーザーは、ITPでcookieを消され、同時にAd Blockでタグもブロックされている。2つの要因に引っかかっているが、「消えるデータ」としては1人分だ。
足し算すると、この人を「2人分消えた」と計上してしまう。これが過大推計の原因だ。
さらに、これらの要因には正の相関がある。「プライバシー意識の高い層」は、Safariを選び、Ad Blockを入れ、cookieも拒否する傾向がある。重複は偶然ではなく、構造的だ。
ベン図で重複排除する——和集合の計算式

4つの要因をA, B, C, Dとし、それぞれが独立事象であると仮定する。すると、少なくとも1つの要因でデータが消える確率(和集合)は、以下の包除原理(inclusion-exclusion principle)で計算できる:
P(A∪B∪C∪D) = 1 − (1−P(A)) × (1−P(B)) × (1−P(C)) × (1−P(D))
各要因の保守的推計値を代入する:
- P(ITP) = 0.12(Safari全デバイスベース)
- P(ETP) = 0.03
- P(AdBlock) = 0.15
- P(Consent) = 0.05
計算:
= 1 − (1 − 0.12) × (1 − 0.03) × (1 − 0.15) × (1 − 0.05)
= 1 − 0.88 × 0.97 × 0.85 × 0.95
= 1 − 0.6893
= 0.3107
独立仮定・重複排除後の欠損率 ≒ 31%
ただし前提を見落としてはいけない。この計算は独立事象を仮定している。
実際には、先述の通り「プライバシー意識の高い層」は複数の要因が重複しやすい。要因間に正の相関がある場合、和集合の値は独立仮定よりも小さくなる。
つまり、独立仮定の31%は、現実の重複を無視した上限値だ。相関を考慮すれば、実際の欠損率はこれより低い。
だから「保守的推計」と呼ぶ。
3つのシナリオ——保守的・中央・最大

シナリオA:保守的推計(相関を最大限考慮)→ 20〜25%
プライバシー意識の高いユーザー層が要因を「兼務」していると仮定。例えば、Ad BlockユーザーのうちSafariユーザーが多い、cookie拒否もしている、等。重複が大きいほど和集合は小さくなり、実質的な欠損率は20〜25%に収まる。
該当するサイト: 日本国内のEC、モバイルユーザー比率が高い
シナリオB:中央推計(部分的相関)→ 30%前後
独立仮定に近いが、一部の正の相関を認めるモデル。前回の記事で示した「3〜4割」のうち、下限に近い。
該当するサイト: BtoBサイト、SaaS、デスクトップ比率が高い
シナリオC:最大推計(相関が低い環境)→ 40%超
Consent Modeの拒否率が高い(バナーのUI設計が「拒否しやすい」)、かつデスクトップ比率が高くAd Block利用率が20%を超える環境。さらにiOSベースのITP影響を加重計算すると、40%を超えるケースが成立する。
該当するサイト: EU向けサイト、グローバルEC、法令対応でバナーのボタン対等設計を実施済みのサイト
ITP定量モデル——「新規ユーザー数」の水増しを計算する
前回の記事で「Safariユーザーのリピート訪問が『新規2人』に見える」と書いた。これを定量化してみよう。
モデルの前提:
- cookie寿命:7日(ITP制限)
- 平均再訪周期:T日
- Safariユーザー比率:S%
cookie切れ確率は、単純化すると「再訪時にcookieが失効している確率」として:
P(cookie切れ) ≒ max(0, 1 − 7/T)

Safariの全デバイスシェア23%で計算すると、平均再訪周期14日のECサイトでは:
新規ユーザー数の水増し ≒ 23% × 50% ≒ 11.5%
つまり、GA4が表示する「新規ユーザー数」は、実際のユニークユーザー数より約12%多く見えている可能性がある。
「正確な数字」を求める必要はない
ここまで計算式を並べてきたが、最も重要なことを言う。
各要因のパラメータ——Safariシェア、Ad Block利用率、Consent拒否率——は、あなたのサイトの業界、ユーザー層、デバイス比率で大きく変動する。全サイト共通の「正解の数字」は存在しない。
正確な欠損率を知ることより、欠損が構造的に存在することを知ることの方が、100倍重要だ。
この認識があるかないかで、同じGA4のダッシュボードを見ても、意思決定の質が根本的に変わる。
データが壊れているのは分かった。では、それを見ている人間は?
ここまで2回の記事で、GA4の計測構造の限界を解剖してきた。
データの側はこれで十分だ。
次に問うべきは、そのデータを見ている人間の側——つまり広告代理店が、なぜ「チャネル最適化」以外の提案ができないのか、その構造的理由を分析する。
マーケティングなき
エンジニアリングは独善、
エンジニアリングなき
マーケティングは空論。
データ計測基盤の構造的課題を定量的に診断し、意思決定の土台を再設計したい方へ。
📎 データソース・参考情報
- GA4は「正解」じゃない——3割が消える7つの構造的欠陥
- Apple WebKit Blog — Intelligent Tracking Prevention (ITP) 技術仕様
- Mozilla — Enhanced Tracking Protection (ETP) 技術仕様
- StatCounter GlobalStats — 日本のブラウザ市場シェア統計(デスクトップ+モバイル)
- StatCounter GlobalStats — 日本のモバイルブラウザ市場シェア統計
- Backlinko — Ad Blocker Usage and Demographic Statistics
- Google Developers — Consent Mode v2 技術ドキュメント
- 個人情報保護委員会 — 次期改正個人情報保護法(2026年7月成立・公布)
- Google Analytics ヘルプ — [GA4] データのしきい値について